2013年8月30日

[連作:3]夏の…

『夏の終わりと、続く恋』2013年版.3 初稿(ぴくしぶにあるのは2015年版)

《ドロッチェ×カービィ小説 短編》

 続きです。最初は4つに分けて考えていたのですが、3つめのパートだけ文字数が倍以上とか言われてしまったので(汗)分割。
 ドロカビと言うより、ほとんどチューリンしか目立ってない気がします。どうしてこうなった。


(3)アイランドアイスで・その1(約4160字)

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  『夏の終わりと、続く恋』(3) ドロッチェ×カービィ

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「…本当に、来ちゃったんだ……。…ぅ、…どうしよう、緊張してきた……」

 ぎゅー。と必要以上に力を篭めてしがみつくカービィを乗せ、ワープスターは薄く雪化粧をした木々の間を、ゆっくりと進んでいく。
 先程までとは打って変わって、徒歩と変わらないくらいのスピードになってしまっているワープスターだったが、カービィは既に頭の中がぐるぐると、とても歩くどころでないという程にすっかり考え込んでしまっていたので、乗っていて正解だっただろう。

 …あんなにも会いたい、と思って飛び出して来た筈なのに、ここまで来てなんだか怖いくらいに緊張してしまうなんて。基本、自由奔放に生きてきたカービィにとって、これは初めての体験だった。

 そんな事を考えている間にもワープスターは順調に進み、もうすぐ森を抜けて雪原に出ようとしている。ぐるぐる考えていても仕方ない、とようやく顔を上げたカービィは、森の出口あたりに転がる大きな丸い影に、ふと違和感を覚えた。
 しゅー、とどこからか小さく聞こえてきた音。岩にしてはきれいな丸を描くその黒い影に、見覚えがある気がした。たしか……、チューリンたちが、よく使っていた……―――


―――ボムッ!!


 咄嗟にワープスターの先端を跳ね上げて、爆発から逃れる事に成功する。爆風に乗って距離を取り、体勢を整えるカービィに、小さく、せーの、という声が聞こえてきた。
 次の瞬間、木々の梢の間から、大量の大小の爆弾がカービィめがけて投げつけられる。カービィはワープスターから飛び降りると、地面を踏みしめ、降り注ぐ爆弾の群れを見つめてその口を大きく開いた。

 強風が、地面に落ちる前の爆弾を強力に吸い寄せ、まとめてカービィの口の中へと吸い込まれて消えてゆく。さらに「ちゅーっっ!?」と悲鳴が聞こえ、森の中に隠れていた小さな姿が、バランスを崩したらしく落っこちてきた。
 爆弾の最後の一個まで『がんばり吸い込み』すると、カービィはそこで口を閉じた。ぎりぎりで巻き込まれずに済んだチューリンたちが、ぼとん、と地面に落っこちる。星型弾にする訳にもいかないので、口の中はその場で飲み込むことにした。
 近くの地面で伸びているチューリンを覗き込む。落ちたショックで目を回しているだけのようで、とりあえず胸を撫で下ろした。

「…ちゅー…?」

 驚いた声が聞こえて見上げると、背の高い木々の間に、色とりどりのチューリンたちが鈴なりになってこちらを見ていた。その数を見ると、『吸い込み』に煽られて落ちたのはほんの数人だったらしい。チューリンたちも成長したなぁ、と、カービィは少々場違いな感動を覚えてしまった。

「…ちゅ…。ちゅーっ!!」

 ようやくその場に居るのがカービィだと気付いたのか、チューリンたちが口々に歓声を上げ、幹を滑り、または飛び降りてきた。あっという間に取り囲まれて、カービィはくすぐったそうに微笑みを浮かべた。

「…ひさしぶり。チューリン」

 ちゅー、ちゅー、ちゅーっ、と賑やかな挨拶が続く。ポポポアイランズで一緒に行動していた際に、今よりも若干幼い言動に戻っていた10人のカービィたちとまだまだ幼い子供であるチューリンたちとは、冒険の合間にすっかり仲良しになっていたのであった。
 久々に出会った友人に興奮したのか、キラキラした瞳で無邪気に笑い掛けてくる子の隣で、少しだけ年長のチューリンが、申し訳なさそうに大きな耳をしおれさせて話し掛けてきた。カービィだと気付かずに攻撃を仕掛けてしまったと謝るチューリンに、カービィは明るく笑う。

「アジトに近付く不審者って思ったって? あはは、ひどいなー」

 そう言いつつ手を伸ばして、ぽんっ、とチューリンの頭に乗せる。たしかに突然の攻撃にはとても驚いたけれど、こうして彼らと再び会えた事の喜びの方が大きかった。怒っていないカービィを見て、チューリンの耳にも元気が戻ってくる。


「こんな辺境に客が来ることなんて、滅多にないからな」


 唐突に新たな声がその場に投げ掛けられて、カービィの動きが、ぴたりと止まる。周りにいたチューリンたちが「ちゅーっ」と明るい声を上げ、そちらへと飛び付いて行った。
 纏わり付くチューリンたちを見下ろして、軽く笑い掛ける。

「よく気が付いたな、お前たち。―――判断は悪くなかったが、警告を発する前に、敵う相手かどうか見極めるのも重要だぞ。…まあ、よくやったよ」

 ちゅーちゅーと賑やかなチューリンたちを、片手を振ることで下がらせて。ようやく振り返ったカービィの眼に、フッ、と柔らかな笑みを浮かべた姿が飛び込んでくる。


「…よく来たな。―――久しぶりだ…カービィ」


 カービィが、会いたかった人。チューリンたちを従える盗賊団の長―――『ドロッチェ団』団長のドロッチェが、一ヶ月程前に別れた時と変わりない様子で、ふわり、とそこに浮かんでいた。眩しい記憶の中と同じ赤い衣装が、白い景色の中で鮮やかに彼の身を引き立てている。

「……ひ、…ひさし、ぶり。……ドロッチェ」

 顔が、…表情が、上手く作れなかった。チューリンたちの時と同じように、笑い掛けたいのに―――無表情がちに見上げてくるカービィに何を思ったのか、ドロッチェは特に気にした様子もなく、ゆっくりとカービィへと近付き、口を開く。

「…それで、何か用か? こんな遠い所まで、ただの通りすがりって事はないだろう?」

 茶目っ気を含んだ穏やかな声で訊ねられ、カービィは苦しい努力を放棄して、次の言葉を探す事にした。幾らか表情が戻ってきたほっぺたに赤い色を上らせながら、実は何も考えていなかったとは言えず、慌てて思いつきを口にする。

「…あ…っ、遊びに来たんだよ! …あ、そーだ……これ、おみやげっ!」

 背後に停めていたワープスターから、乗せたままだった小さな紙の箱を取り出して、ドロッチェに突きつけるように差し出す。ドロッチェはちょっと不審そうに鼻を動かしていたが、チューリンたちが興味津々で覗き込んで来るのに気付き、ひょい、と受け取った。
 そして箱の軽さに、肩を竦めて苦笑する。
「…あのなぁ…。オレたちの人数、忘れてるんじゃないか? いくらなんでも少なすぎるだろう、これ」
「…うん…、ボクも、ちょっと行き当たりばったりすぎたなぁって、今、後悔してるところ…」

 そもそもこの箱の中身は、今日飛び入り参加した試食会で参加者へのおみやげとして配られたもので、当然ながら彼らのために用意したものでもない。ついでに、『カップルで食べてねカップケーキ』という主催者の言葉を思い出し、ああ、だからドロッチェに会いに来たくなったのか、とふと頭を掠めた自分の考えに、思わず赤面しそうになった。人目がなかったら、頭を抱えてその場でのたうち回っていたかも知れない。
 …と言うか。こうしてチューリンたちの前で渡してしまった以上、たぶん、ドロッチェと二人で食べる、という事は実現不可能だろう。
 一度差し出してしまった手前、返して貰う訳にもいかず。やっちゃったー、という顔を隠すように俯いていたカービィの耳に、小さく吹き出す音が聞こえてきた。
 カービィの心を知ってか知らずか、楽しげに笑うドロッチェに、カービィも、恥ずかしいながらも嬉しいような気持ちに満たされてしまう。渡された箱を持ち上げ、しげしげと眺めていたドロッチェが、ふと気付いたように声を上げた。
「…ああ。試食会か。今日だったんだな」
 その言葉に、カービィは眼を丸くする。どうして彼が知っているのか、と疑問を口にする前に、ドロッチェは肩を竦めて、ぴらり、と見覚えのあるチラシを取り出した。
「言っただろう? 情報収集は盗賊の基本だって」

 おそらくは食べ盛りなチューリンか、ストロンあたりが情報を仕入れて来ていたのだろう。一部のチューリンが、ものすごくキラキラした、ちょっと羨ましそうな眼でカービィを見ていて、カービィも苦笑を返すしかなかった。
 …と言うことは、彼らはプププランドにも、情報集めにちょくちょく来ているのだろうか。そう思うと、なんだか不思議な感じがした。

 少しの間考え込んでいたドロッチェが、いたずらを思いついた子供のような瞳になり、カービィに向き直る。
「せっかくここまで来てくれたんだ。歓迎する。―――ああ、そうだ。ついでだから、もう少しチューリンに付き合ってやってくれよ」

「…ぷゆ?」「ちゅー??」

 唐突な言葉に、思考が追い着かずにヘンな声が出てしまったカービィと、きょとんとするチューリンたち―――いつの間にやら、最初にカービィを襲ってきた人数よりも数が増えていた。おそらくは団員全員が、ここに集まってきているのだろう。気絶していた子たちも、しっかり回復している。
 見上げてくる面々に、ドロッチェは手にした箱を見せつけながら、チューリンたちに宣言する。

「お前たち。いい機会だ、カービィにしごいてもらえ。―――それで、最後までカービィから逃げ切れた者に、このみやげをやる。ってことでどうだ?」

「ちゅーっっ!?」

 さっきから密かに箱の中身を狙っていたチューリンたちが、歓喜の声を上げる。釣られるように、チューリン全体が盛り上がってきた。急な話の展開に、ぽかんとしていたカービィだったが……

( ――もしかして。上手いこと彼らを全員捕まえられたら、ドロッチェと一緒に食べられる……?)

 ふっとそう思いつき。俄然、やる気が湧いてきた。
 わらわらと集まってきたチューリンたちに向かって不敵な笑みを浮かべ、ビシィッ! と気持ちの上で指を突きつける。
「ふふふ…、だてに、こないだまで10人に分かれていた訳じゃあないんだよっ! 暇つぶしに一緒に遊んだりしてくれてたから、キミたちが実はどれだけいるのかとか、ちゃーんと分かってるんだからね! 覚悟してよチューリンっ!!」

「「「ちゅーーーっっ!!」」」

 双方、気合いは充分である。

 かくして、たった2つ分のおみやげケーキを賭けた、黄・青・緑に普段は非戦闘員の赤も加えた全色チューリンズvsカービィの、壮絶な『鬼ごっこ』の火蓋が切って落とされたのだった。