2014年3月15日

天の女王と鏡の幻想・3

ぴくしぶ投稿済『天の女王と鏡の幻想』
初出.3

トリデラ終盤ストーリーつれづれ話:詳しい前書きは〈その1〉へ。

 一番書きたかった章。こんな話も、ありかな、なんて思ってくださったら、ありがたいです。
 今回の主な創作部分:女王と鏡の関係。 鏡の『おとぎ話』。
  鏡の配置。件の鏡を、先に「女王の私室に置いてある」と設定してしまったのもあって、「鏡のある部屋」と「セクトニアと最初に戦った部屋」は別部屋、ということになっています。


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3.真実の女王 ―― 月下の狂王


 眩しい月明かりの差し込む部屋。大きな姿見の前に立ち、女王は鏡に手を伸ばす。
「……鏡よ。…わらわは、美しいか?」
 蕩けたような声で、目の前の鏡へと囁くセクトニア……彼女は、侍女の一人が幾重にも垂らされたカーテンの裏に潜んでいることに気付かなかった。
 もし見つかれば今度こそ命はないかも知れない、その覚悟を胸に、桜色をした花の民の娘は必死に息を潜めて、ぞっとする程の美しさを纏う女王の姿を見つめていた。
 しかし娘の隠れている位置からは、件の大きな鏡を覗き込む事はできなかった。娘からはちょうど見えない、鏡の表面を優雅な手つきで撫でながら、セクトニアは妖しげに微笑みを浮かべる。
「お前は……あの娘たちの姿を、映したのだな。…かつては……タランザも………」
 …セクトニアの声が、少しずつ、変化していく。


「……なぜだ。 ―――なぜ、お前はいまだに、わらわだけを映さない……?」


 震え、…セクトニアは、目の前の鏡に拳を叩きつけた。

「―――なぜ、わらわだけを映さない!! …その鏡に映る、願いは叶うと言う……ならばなぜ、お前はその身に、わらわだけを映そうとしないのだ!? わらわに―――叶えるべき “願い” など無いと、そう言うのか!!」
 激情のまま、細い指先を握り締め、何度も拳を打ち付ける……大きな鏡は、ヒビすら受け付けず、ただそこに存在し続ける。


 ―――長い歳月が経とうとも、決して自分の姿だけを映そうとしない、魔法の鏡。
 それに執着し、歪んでいく女王。


「…っ、…この姿が、真実の姿ではないからか!? 本当の自分など、…もう、思い出すこともできぬと言うのに……ッ!!」
 喘ぐように声を絞り出し、セクトニアは鏡にもたれ掛かる……その姿は、親に縋りつく小さな子供のようで。

「……持って生まれたチカラを自分のために使って、何が悪い。美貌も…魔力も…権力も……すべて、このチカラで、手に入れた。……そうやってここまで…この天空の一番上にまで、昇りつめて来たというのに……」

 持って生まれた自分の能力。生きるために寄生し、他者の身体を奪い取り、……それでも叶わぬ豊かな暮らしを求めて、そして彼女は女王となった。

「―――認めぬ。…このわたしを…認めない、など…… そのような事は…決して、認めぬ……!」

 呪いの声を吐きながら、完璧なまでに美しいその細い指先は、ものも言わず静かに佇むだけの、たったひとつの鏡を掴んで離さない……。


 己だけを映さぬ鏡。その事実を知られる事を怖れ、自分だけのものにして。


「……まだ、足りぬ……。
 そうだ、フロラルドだけでは足りぬ。……下界も。この浮遊大陸を含む、この星そのものの女王となれば……そうすれば………。
 ……お前に……わたしの存在を、必ずや、認めさせてみせようぞ……!!」


 恐怖と狂気に蝕まれて。
 ただ、「映した “願い” を叶える」その鏡にだけ、心を縛り付けた。



 ――― おとぎ話は、ホントウのこと? ―――



 …ゆらり、と、セクトニアが鏡から離れた。細く差し込む月明かりに誘われるように、ゆっくりと部屋を横切り、テラスへと出る。
 見下ろせば、広がるのは目映い月を映して光り輝く、遥かな雲海……―――この天空の頂を目指した本当の理由も、かつて胸に抱いていた筈の気高き理想も、いつしかどこかに忘れ果て―――……残されたのは、狂った野心。
 曇りなき月光を全身に浴びて、天上の女王は笑う。
 月に煌めく黄金の羽を広げ、供も付けずにたった一人で、己の支配する空へと飛び出していく。眩しい輝きに照らし出されたこの空の、天空のあまねくすべては自分のもの―――そう、高らかに歌うように。
 光を撒いて夜の空を舞う美しき女王の姿を、……桜色の花の娘は、いつあふれたのかも分からない涙もそのままに、見つめていた。




「―――…女王様のおっしゃったことが真実だったのかどうかは、分かりません…。最初に見た時、あれは、普通の鏡に見えました。…けれどその時は、もう一度確かめるのが怖くて……わたしはそのまま、女王様の部屋から逃げ出してしまいましたから…。
 ……けれども。…女王様の野望だけは、間違いようのない本物だと感じました」


 話を聞いているうちに、妙に引っ掛かりを覚えたデデデ大王は、この蔦に閉じ込められた広間に居ても仕方がない、と天空の民たちを促して、件の鏡が置かれているという女王の部屋へと向かうことにした。
 宮殿の中は今や、至る所に生々しい蔦が姿を見せ、うごめいていた。たまに見掛ける兵士たちも皆この状況に混乱している上、元々女王の私室の近くにはさほど多くは配置されていなかったらしく、障害になるようなものは何も無かった。
 一族としての事情はともかく、元はこの宮殿で女王に仕えていた天空の民の娘たちは、現在の惨状を痛ましそうに見つめていた。
 大王と並んで走りながら、桜色の花を纏う娘が、話を続ける。
「わたしは、あの夜に聞いた女王様の言葉を仲間たちに打ち明け、花の民の皆でこの帝都から、どうにか脱走する事に成功しました。そして故郷ファインフィールドへと辿り着き……族長は、わたしたちの話を聞いて、すぐに決断を下してくれました。
 だけど、種を地上へ落として間もなく、わたしたちを追って来た兵士たちによって、今度はワールドツリー計画に関わった皆も共に捕らわれてしまって…。」
「なるほどな。で、ここでまた捕まってたところを、カービィが助けたって訳か」
「はい。…何の事情も話せないままで、本当に申し訳なく思っています…」
「連れ戻されるわたしたちと入れ替わりに、タランザさ………魔術師が、地上に向かった事には気付きましたが…わたしたちには、どうしようもなくて」
「…わざわざ、言い直す必要はねぇよ。……それにしても―――…鏡、か。
―――ん? …待て、止まれ!」

 そこはおそらく空中の渡り廊下だったのだろう、柱だけが続く道の途中で、宮殿を覆い隠す蔦の一部が外側から破られ、さらに粘着性のある糸によって押さえつけられている現場が眼に飛び込んできた。……大王には、嫌になる程に見覚えが……身に覚えもある、その糸は。
 緊張の走る一行に気付いたのか、力無くうずくまっていた人影が、はっとしたように顔を上げる。

「……キミ、たちは……っ!!」

 女王の雷に撃ち払われ、雲海の彼方へと捨てられた筈のタランザが、そこに居た。


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 セクトニア様に関わる形容文をくどめに盛ってしまうのは何故だろう(汗)