ドロッチェ×カービィ初期短編:『元に戻って』の直接の続き。ドロッチェ編。
時間軸は、『あつめてカービィ』EDの直後(数日後)くらいで、前作の翌日にあたります。
ドロッチェが、カービィを意識し始める、“きっかけ” に気付く話。…なので、基本的にかっこよさはないです(ぇー) 軽くですがドロッチェの過去(『参上』での話)に触れてます。
…嵐が過ぎれば、次の嵐が、やってくる。
―― ★☆★ ――
「―――元気になったようだな」
ポポポアイランズには珍しい嵐の夜が明けた、次の日。
一転して晴れ上がった空の下、広い草原に元気な笑い声が響き渡る。
チューリンたちと一緒になって転げ回るカービィの姿を、ドロッチェは目を細めて眺めていた。
今日は、身体の調子も良いようだ。チューリンたちに(一応は)課している、戦闘訓練混じりの追いかけっこに紛れ込んで、元気に跳ね回っている。その笑顔に、ほっとした。
―――昨夜の雷に怯え、しかし懸命に耐えようとする震える姿には、ドロッチェの胸も痛んだ。
しかしあの笑顔を見るに、カービィはその恐怖を、無事に乗り越えることができるだろう。
「……、…強いな…あいつは」
ぽつりと呟くドロッチェ。しかしその胸の内にあるのは、言葉とは違って、羨望ではなかった。
( ――…あいつが…、乗り越えた姿を見るのが…嬉しい。)
彼の強さが、その輝きが、曇らなかったことに、胸が熱くなる。
カービィの強さを実感できて、嬉しかった。かつて自分を、自分たちをこの星とともに救ってくれた強い戦士。
思い出すのは苦い記憶だが、それが彼らドロッチェ団とカービィの出会い。
ふと、ドロッチェは気付いた。
「―――最近は――見ていない…な…」
目蓋の裏に焼きついた、冷たい闇。―――傷が癒え、ポップスターを旅立った後も、ずっと消えなかった後悔の闇。
何度うなされ、飛び起きたことだろう。あれからもう随分と経つが、彼の内側に刻み付けられた闇は、いつまでも鮮明に “あの時の記憶” を呼び覚ました。
きっとこれは、安易に力を求めた自分の咎。これから先もずっと、向き合い続けていかねばならないのだろう。……そう、思っていたのに。
確かにもう長らくの間、あの冷たい “夢” を、凍えるような闇の声を、感じていない。
――いつから……?
「……ポップスターに、再びやって来てから…か……?」
お宝の在り処と、不穏な情報を聞きつけたとはいえ、再びポップスターに降りるのには勇気が要った。……この星は、眩し過ぎる。自分の後悔などちっぽけなものだと言われているかのように、大地に降り立っても不思議と心は騒がなかった。そして幾らも経たないうちに、今回の騒動に巻き込まれて―――。
カービィと、再び出会ったのだ。
( ――…………。 ――― な、――なん、だ…?)
突然跳ね上がった鼓動に戸惑い、ドロッチェは自分の胸を押さえた。
確かに大変な戦いだった。自分たちの目的も兼ねて、裏からの手助けくらいしかしていなかったが、10人もの気ままな旅人とそれを導く “輝き” を追い、このポポポアイランズ中を飛び回ったものだ。 ……自分を支配したあの闇とは性質が違ったとはいえ、闇を掲げるドクロ団との戦いの中でも、過去の幻影に引き摺られることなかったのは、単に忙しかったからなのだろうか……?
昨夜の別れ際、カービィにふざけて飛びつかれた時の事が、さまざまと思い出される。
一瞬と言える短い時間だったが、抱きついてきたカービィの身体は温かかった。
闇に凍える身体に、そのぬくもりを残していく程…。
( ――って、オレ一体何を考えて……!)
早くなる鼓動。顔にまで血が上ってきた感覚に、ドロッチェは慌てて手で顔を覆う。
……そしてこんな時に限って。
「ドロッチェーーっ!」「ちゅーーっ」
カービィが、遠くにいたドロッチェに気付き、チューリンたちと共に声を張り上げた。
ぐらりと体勢を崩したように見えたドロッチェが、かすかにカービィたちのほうを向いたのが分かり、ぶんぶんっ、と大きく手を振る。
ばさり、とマントを翻し、カービィたちに軽く手を上げて応えると、ドロッチェはそのまま瞬間移動術で消えてしまった。
「……ちゅーっ?」
隣にいたチューリンが、どうかしたのかな? と首を捻る。
「さぁ…。何か用事でも出来ちゃったんじゃない?」
同じように首を捻りながら、カービィはチューリンに答える。
マントを翻して鮮やかに消える、そんなちょっとした仕種にまでドキドキと早鐘を打ち始めた自分の鼓動が、周りのチューリンたちに気付かれないように祈りながら。
「―――ッ……、な、…なにをやっているんだ、オレは……!」
団の皆から出来るだけ離れた森の中に瞬間移動したドロッチェは、そのまま頭を抱えてその場に頽れてしまった。
これじゃ逃げ出したようなものじゃないか。恥ずかしさにますます顔が熱くなる。
落ち着け、落ち着け、と呪文のように唱えて、無理矢理気分を静める。はぁっ、と熱くなった息を吐いて、空を見上げた。
昨日と違い、よく晴れた空だ。…こんな嵐のような気分は相応しくない。
胸に手を当ててみる。まだ静まりきらない鼓動が感じられた。
――こんなに、全身に血が巡るような騒がしい感覚は、いつ以来だろうか…。
ふいに、なんだか笑いたいような気分になった。そんな自分の心の動きに、口元が自然に笑みの形に歪む。
……数日前、チューリンの一人と交わした会話を思い出した。
団長、元気になってよかったね、と突然言われて、思わずぱちくりと瞬きしてチューリンを見返したのだ。
「元気にって―――今回、オレたちには別に何か被害が出た訳でもないだろう」
「ちゅーちゅちゅーー」
みんな元気で、ぼくたちうれしい。ありがとう。
…どうやら軽く興奮しているらしい、幼いチューリンの言いたい事はよく分からなかった。少し落ち着け、と言おうとして、続くチューリンの言葉に口を閉ざした。
「ちゅー、ちゅーっ!」
カービィに、ありがとう。
…結局この子が何を言いたいのかは分からなかったが、ドロッチェは苦笑して、チューリンの頭を撫でてやった。
―――今なら、解る気がする。最近チューリンたちが前にも増して騒がしいのは、まだ休暇気分が抜けていないスピンたちの監視が緩くなっているのに加えて、カービィが居るからだと思っていた。そうでは、なかった。
何よりも、ドロッチェ自身の心が、光に目を向け始めていたからだった。他でもない、カービィの存在によって。皆が明るくなったと感じたのは、自分がそうだったから。その単純な事実に、ようやく気が付いた。
「…オレたちは、……オレはまた、あいつに、救われたんだな……」
自分の過去が、消える訳ではない。けれど。
…目を閉じれば、柔らかなぬくもりが思い出される。闇をも溶かす温かさ。
――このぬくもりがあれば、あの冷たい闇と、また戦うことが出来るだろう…。
「………カービィ、…」
口の中でその名を呟く。それだけで、胸の奥が熱く満たされていくようだった。
ぎゅっ、と、こぶしを握り締める。心の底に刻み付けるように。
ドロッチェは空を見上げた。心地よい風の渡る、空。
―――別れの時は、近いだろう。
素直になるのは難しいが、別れの前に一言だけでも、カービィに「ありがとう」と伝えたい、と思った。
……その気持ちよりも奥底に疼く、その感情には、まだ気付いていないふりをした。
☆★☆ ★☆★ ☆★☆
…こんな感じ、かなー。いろいろと足りてないと思っていた筈なのだけれど…どこをいじろう。
自分の書きたいお話の中では、基本的にダークゼロは、ドロッチェに盛大にトラウマを残していったわるもの、という扱いです。可愛いダゼロさまはここには居ません。(そしてダゼ→ドロです…(こそこそ。))